グリストラップはそもそも、設置が義務づけらているのでしょうか。
法律で決められているのでしょうか。
「新しく飲食店を開業するんだけど、グリストラップの設置は必要なの?」と悩んでいる方は一読をおすすめします。
Aさんは、晴れて飲食店を開業することになりました。
開店にむけて、内装の打ち合わせをしていたある日のこと。
工事業者の見積もりに「グリストラップの設置工事」という項目をみつけます。
けっこうな金額です。
「このグリストラップってのは本当に必要なのか?つけなきゃいけない法律でもあるの?予算の問題もあるし、できれば設置しないでもらいたい…」
Aさんと同じような疑問をもった方が、当サイトにもいらっしゃるかもしれません。
はたしてグリストラップは、設置が義務づけられているのでしょうか?
それに対して、ひとことで答えるならば、
「義務かどうかは、地域の下水道課に問い合わせてください。」
となります。
ずいぶんと投げやりで無責任な答えだと感じられたかもしれません。
「もうすこし、具体的に説明してくれない?」と思われた方は、このまま本文の続きをお読みください。(けっこう長いです…)
結論のみを知りたい方は、すぐ下の「この記事のまとめ」だけを読んでいただければOKです。
この記事のまとめ
- 法令上グリストラップの設置は義務とされているが、義務とするための明確な適用基準は定められていない。
- 一般的な飲食店には、排水の水質基準は適用されない。
- ただし、地域によって設置義務や排水基準が異なるため、自治体の下水道課に必ず問い合わせること。
- 厨房業務をおこなう事業者は、法令にかかわらず、社会的観点からグリストラップの設置が望まれる。
グリストラップにかかわる法令①建築基準法施工令と建設省告示
グリストラップの設置をしなさい、と明示した法令があります。
建築基準法施行令第129条
建築物に設ける排水のための配管設備の設置及び構造は、(中略)安全上及び衛生上支障のないものとして国土交通大臣が定めた構造方法を用いるものであること。
つまり、「国土交通省の仕様どおりに排水設備を設置しなさい」といっています。
では、その仕様とはどういうものなのか。
それが、次の建設省告示で示されています。※建設省は現在の国土交通省です。
建設省告示第1597号
汚水が油脂、ガソリン、土砂その他排水のための配管設備の機能を著しく妨げ、又は排水のための配管設備を損傷するおそれがある物を含む場合においては、有効な位置に阻集器を設けること。
これを解釈すると、「飲食店の排水に含まれる油脂分によって、排水管を汚したり詰まらせたりする可能性がある場合は、阻集器(グリーストラップ)を設置しなさい」ということだと思います。
ここで疑問がわきます。
「配管設備の機能を著しく妨げ、又は損傷するおそれがある場合」とあります。
この部分の表現がなんとも抽象的ですよね。
具体的な数値基準が示されていないので、「それって、該当するかどうかをどう判断すればいいの?」って思ってしまいませんか?
こういうのをグレーゾーンっていうのかしら…
たとえばですが、「厨房面積が〇〇m²以上、かつ一日の排水量が〇〇リッターを超える飲食店が該当」などと具体的に規定されていれば「じゃあ、うちはこの基準に該当するからグリーストラップが必要だな」と迷うことなく判断できますよね。
しかし、上の建設省告示の表現だとそのあたりの判断がむずかしい。
極端にいえば、「うちのお店はあまり油を使わないので、グリーストラップは必要ないです」という感覚的な判断も許されてしまうのではないでしょうか。
では、もっとはっきりと、数値で規制されている法令はないのでしょうか?
グリストラップにかかわる法令②下水道法と水質汚濁防止法
事業場からの排水にたいして、排出基準を設けている法令があります。
「下水道法」と「水質汚濁防止法」です。
※水質汚濁防止法が適用されるのは「特定施設」とよばれる事業場で、飲食店でいえば床面積420m²以上の店舗が該当します。
この法令により、排出基準として計43の項目が定められています。
そのなかでも、特に飲食店において該当するのが「ノルマルヘキサン抽出物質(動植物油脂類)」です。
ノルマルヘキサン抽出物質とはかんたんにいうと「油脂分」のことで、この数値が30mg/リッター以下であることが必要とされています。
ただし、この数値規制が適用されるためには「ある条件」があります。
・1日あたりの汚水排出量が50m3以上の事業場
にのみ、適用される規制なのです。
1日あたり50トン以上の排水って、普通の飲食店ではありえないと思います。(お風呂の浴槽約200杯分に相当します)
つまり、一般的な飲食店には、この「ノルマルヘキサン抽出物質30mg/L以下」という排出基準は適用されないということです。
じゃあ、やっぱりグリストラップを設置しなくても法的には大丈夫じゃないの?
と考えそうになってしまいますが、油断しないでください。
なぜなら、地域によってこれらの判断基準が変動するからです。
「上乗せ基準」といって、下水道法よりさらに厳しい排出基準を条例としている自治体があります。
最終的な判断基準は地域の条例による
日本では、グリストラップに関係する法令として「下水道法」「水質汚濁防止法」「建築基準法」が母体としてあります。
そのうえで、各都道府県、さらには各市区町村が、それぞれの地域事情を考慮して独自の条例を制定しています。
たとえば、東京都においては、「すべての飲食店はグリストラップの設置が義務」として条例になっています。
厳密にいうと、東京都では「以下に該当する事業所にはグリストラップが必要」とされています。
・食品衛生法(昭和22年法律第233号)第52条第1項の規定による許可を受けて営業する飲食店等
・健康増進法(平成14年法律第103号)第20条第1項の規定による届出を行って開設する特定給食施設
ですので、東京都内で飲食店を営業するためには、必ずグリストラップを設置しなければなりません。
設置しなければ条例違反になります。
あなたが、法令を順守して店舗を営業したいとお考えでしたら、まずは地域の行政へお問い合わせください。
これが一番確実です。
下水道に関する問い合わせといえば、担当の方へつないでくれるはずです。
※自治体によってはホームページにも情報が掲載されています。
条例がなければ、グリストラップは設置しなくてもいいのか?
では、条例でグリストラップの設置が義務とされていない場合は、グリストラップを設置しなくても大丈夫なのでしょうか?
元清掃作業員としての意見になりますが、「あなたの身をまもるためにも設置したほうがいい」と思います。
法令をまもるため、というよりも、「自分たちの店をまもるため」「地域環境をまもるため」にグリストラップが役立ちます。
設置しないことによるリスクとして、
- 店舗の排水詰まりの頻発による営業損失
- 下水管を詰まらせることによる損害賠償
があり、特に下水管の詰まりは近隣住民にも被害が及ぶ場合があります。(数百万円単位の賠償例もあります)
「うちは数十年、何も問題なく営業してきんだから大丈夫」と油断される方も多くいらっしゃいます。
しかし排水の詰まりは末期状態になって初めて発覚することがよくあります。
そのときには、数十年にわたって蓄積された重度の詰まりを清掃しなければならず、作業も費用も大がかりになります。
もちろん、詰まりは必ず起きるとはいいきれませんが、環境への観点からも、油脂分を垂れ流しにするべきではありません。
事業をおこなう店舗の社会的責任として、グリストラップは設置するのが望ましいです。
補足① 保健所の営業許可はおりるの?
飲食店を開業するときは、保健所の検査を受けなければなりません。
グリストラップが設置されていなくても、審査自体は通ることが多いようです。(地域によって対応が分かれる可能性があります)
保健所は食品衛生法の観点から審査をおこなうので、グリストラップに関しては管轄外なのでしょう。
ただ、グリストラップの未設置を指摘されたり、指導されたりする場合はあるようです。
補足② 浄化槽地域でもグリストラップの設置は必要なの?
下水道が整備されていない地域では浄化槽によって排水を浄化しています。
「浄化槽があるんだから、グリストラップを追加で設置する必要はないよね?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、浄化槽は油脂分を効果的に浄化させるための装置ではありません。
飲食店レベルの油脂分が流れ込んでしまうと浄化槽の本来の機能が損なわれます。
浄化槽の地域においても、やはりグリストラップの設置は必要となります。
まとめ
長くなってしまいました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
あらためて、この記事の概要をまとめます。
まとめ
- 法令上グリストラップの設置は義務とされているが、義務とするための明確な適用基準は定められていない。
- 一般的な飲食店には、排水の水質基準は適用されない。
- ただし、地域によって設置義務や排水基準が異なるため、自治体の下水道課に必ず問い合わせること。
- 厨房業務をおこなう事業者は、法令にかかわらず、社会的観点からグリストラップの設置が望まれる。